皆さん、こんにちは。組織・人事コンサルタント i-colorカウンセラーの乾 千恵(i-colorイエロー/ピンク)です。

 

一昨年の今頃は、メディアはこぞって「忖度政治だ!」とか「官僚が慮って取り計らったことだ!」とか某国の首相とそのゴルフ友達、某国の首相奥様とその太鼓持ちご夫婦の関係について、あれやこれやと書き立てていましたが、そもそも「忖度(そんたく)」ってそんなに悪いことなのでしょうか?

 

「忖度」の意味するところは、「相手の気持ちを推し量る」「推察する」となります。ところが、一昨年の騒動以来、「おべっか」「へつらう」という意味でつかわれることが増えてきています。

 

「相手の気持ちを推し量る」とは、日本人が美徳としてきた意識で、「忖度」は優秀な役人が兼ね備える素養と言われてきました。「目上の人に皆を言わせるな」的な感覚です。

「言われなくても、殿が言わんとすることを察して先回りする」=「気の利く奴」という考え方です。ここで言う「察する」とは「自分で考える」という言葉に置き換えることができます。

つまり、「忖度ができる」=「自分で考えて行動できる」と言い換えることもできるのです。部下に正しい「忖度」をさせるためには、何が必要なのでしょうか?

 

歴史を眺めてみると、江戸時代にも将軍の意が正しく伝わらなかった結果、とんでもない政治が行われた時期がありました。

 

 

5代将軍 徳川綱吉 

 

 

そう、別名「犬将軍」「犬公方」と呼ばれた、悪法「生類憐みの令」の将軍です。

綱吉が家臣たちや庶民に伝えたかったことは、「動物愛護」ではなく「命の尊厳」だったのですが、肝心なメッセージは伝わらず、動物が守られ、人間の命が軽んじられるという誤ったオペレーションがなされる事態を招きました。

 

綱吉は、4代将軍家綱を兄、3代将軍家光が父、2代将軍秀忠が祖父、初代将軍家光が曽祖父という血筋です。綱吉が将軍職に就く直前まで、島原の乱、由井正雪の乱など戦国の気配がまだまだ残っていて、江戸でも決闘が行われたり、犬や乞食を切り殺す辻斬りの風習が残っていました。綱吉は、将軍職に就くと「儒学」に基づく政治、「命の尊厳」を守る政治を断行しようとします。

「鷹狩りはやらない」「江戸城の食事に魚、貝、エビを使ってはならない」と命じました。それを聞いた役人たちは「将軍様の意」を慮って、生類憐みの令をとにかく徹底的に守りに守りまくります。

その結果、現在の東京都新宿区大久保、中野区中野などに「犬屋敷」と呼ばれる広大な野犬保護施設が設置され、まさに「お犬様」扱いで、ぜいたくな食事などが与えられ、犬屋敷の運営には多額の税金が投入されました。

 

「犬屋敷」などの行き過ぎた政策は、綱吉の死後に廃止されましたが、「捨て子や病人の保護」「姥捨ての禁止」「牛馬の遺棄禁止」など「命を軽んじる行為」を罰することは綱吉以降の将軍たちも継承しました。

 

綱吉は、「生きとし生ける者の命を大事に扱いなさい」という大切なメッセージを自らの言葉で発していませんでした。その結果、「なんで命を大切にしなければならないと考えているのか」という綱吉の本意(Why)は置き去りにされ、「動物を殺すな」「犬は特に大切にしろ」という手段(How、What)だけが伝わり、動物愛護のために人が処罰されるというおかしな現象が起こり、後世に「生類憐みの令は悪法、それをやれといった綱吉は暗君・愚君」という評価が残ってしまいました。

 

ですが、綱吉の時代は現代に続く江戸文化(歌舞伎、浮世絵など)が築かれた最も爛熟した「元禄」という時代です。世の中から、「戦国」という荒々しい気配が消え、戦の無い安定した時代が開けたのは、綱吉の「生類憐みの令」のおかげであり、徳川幕府の役人たちの「忖度」が過ぎた感は否めませんが、将軍 綱吉が言わんとすることを慮り、施策を愚直に実行した結果が「元禄」という時代を生み出したと考えることもできます。

 

ただし、ここまでバランスが悪いのは組織運営上、適切とは言えません。

綱吉に欠けていたことは、組織のトップとして、事あるごとにきちんと「Why」(なぜ、そうしたいのか)をメッセージとしてきちんと発信せず手段(How、What)だけを推し進めたため、綱吉が本当に実現したかったことを正しく理解できていた人はごくわずかでした。

 

綱吉のみならず、現代においても「私に皆まで言わせるな、それぐらい自分で考えなさい」という組織のリーダーはたくさんいます。No.2やNo.3が代弁者になり、組織が機能しているケースもたくさんあります。綱吉のようなタイプは、i-color診断でいうところの「展開」グループに該当します。このコラムでも何度も登場していますね。

 

良い意味で理想が高く、実現したい世界観は崇高なのですが、それをきちんと説明するのが苦手なタイプです。あまり多くを語りたがらないところもあります。そんなときは部下から意図を確認するのがベストなのですが、質問を間違えると「使えない奴」とラベリングされちゃうので、ご用心を。

 

ともあれ、きちんと部下に正しく適切な「忖度」をさせるためには、リーダーは事あるごとにきちんと「意図」を発信し、部下たちが正しく受け取っているかを確認しなければならないのです。

 

 

 

乾千恵
組織・人事コンサルタント
はぴきゃりアカデミー第2期修了/i-colorイエロー。約20年間にわたり人材ビジネス業界に従事。「人事が本当に知りたい情報はネットや書籍には載っていない」をモットーに「人事の相談役」として2016年6月に独立。 現在は、大手企業からスタートアップベンチャー企業まで教育研修や人事制度導入サポートなど、人事が携わるあらゆる業務の支援を実施。