『ハリネズミの願い』新潮社 トーン・テレヘン作、長山さき訳
 
 

絵本セラピストのリカ(ターコイズ/コーラル)です。

 

ある日、本屋で目にしたハリネズミの困ったような表情が、ヘアスタイルをムースで固めてハリのようにツンツンにした夫の表情と重なり、思わず手に取ると、孤独なハリネズミがほかのどうぶつたちを家に招待しようとするものの、「もしも○○が訪ねてきたら、と想像すると、とたんに不安に襲われて、手紙を送る勇気が出ない。」とカバーに書かれているではありませんか。

 

「これは!」と思い、早速購入しました。なぜなら、うちの夫(ロイヤルブルー/ブルー)は、明るく人好きするタイプなのにもかかわらず、自身は“社交が苦手”と思っていて、家ではいつもあれこれと思い悩んでいて、このハリネズミにそっくりだったからです。

 

読み進むにつれ、家では“ネクラ”と妻から言われている夫だけでなく、このハリネズミには私自身が共感できることに気づきました。

 

そう、このハリネズミ、ものすごい妄想族なのです!

 

どうぶつたちを招待する手紙を書きながら、何度も読み返しては逡巡し、結局出せていないというのに、知らないはずの遠い砂漠や海のどうぶつたちのことさえ想像力豊かに妄想し、そのどうぶつが来たらと妄想の世界はどんどん膨らみます。この本のほとんどを、いろんなどうぶつが来た時の恐ろしい妄想やおかしな妄想に費やし、最後に「ぼくはだれにも訪ねてきてほしくないんだ」と思ったハリネズミに、なんと、とっても素敵なことが起こります

 

実は、展開グループ(ターコイズ、レッド、ブルー、ロイヤルブルー)の人たちは、妄想族。スポーツ選手や芸能人とさえ、普通に自分を並べて比較したり(それで落ち込んだり)してしまいます。楽しい妄想も結構好きで、学生時代の展開の友人と、「妄想ごっこしよう」と言って、担任の先生を題材にしたありえないバカ話でお腹がよじれるくらい笑ったこともあります。誰かの結婚式で花嫁からの手紙に感涙すると、自分の結婚式でどんな手紙を書こうかと、読んで両親を泣かせているシーンまで妄想したものです。いろいろ妄想しだすと止まらなくなり、「妄想で忙しくて会社に行けない」と言ったつわものもいるくらいです。

 

展開グループの人たちが妄想するのは、

 

1.次々と考えが頭に浮かび、常に何かを考えている

 

2.相手のことをつい、想像する、察してしまう

 

3.気が利かないと思われたくないから、いろんなことを想定してさりげなく準備しておきたい

 

という展開の3つの特徴が行き過ぎた結果。

 

招待の手紙を受け取ったどうぶつたちがどう思うだろうか、みんなで本当は何て言っているのか、きっと行かないと返事をしてくるに違いない、全員が喜ぶケーキを用意しなくては、など、グルグル悩むハリネズミ。相手の気持ちまで勝手に察するところや、きっとこうに違いないとネガティブにとらえがちなところ、断られることで傷つくであろう自分を事前に守ろうとするところ、誰からも否定されたくないから完璧にしたいところや、いつでも先を考えてしまうところなど、このハリネズミには共感することばかりでした。

 

ほんとうはただ、だれかがふと訪ねてきてくれて、そのお客に「なにも望まず、ただいっしょにお茶を飲み、なにも言わずにうなずきあい」お客が帰っていくことを求めていただけ。

 

なのに、どうしてこんなに複雑になってしまうのでしょう!?

 

「起き上がったらまた考えはじめ、考えはじめるとまた迷いはじめてしまう」というこのハリネズミを愛おしく思う展開さんは多いのではないでしょうか?

 

 

でも、大丈夫。

1つ1つ、スケールの大きな妄想をしながら、ハリネズミはちゃんと、たくさんの大切なことにも気づいています。

 

みんなが、ハリのせいで怖がるのはないかと気に病みながらも、ハリは自分の支えであり誇りであることを感じたり。

 

「自分でもおいしいと思うケーキだけ焼くべきなのかもしれない」と理解したり。

 

自分自身がいるのだから、本当は孤独ではないはずと気づいたり。

 

 

そして、決して怒ることのない愛すべきハリネズミに、妄想していたよりずっとなんでもない、でもまさに願っていたとおりの素敵なことが起こったように、実際には自分が思っているほど、人は自分のことを悪く思っていないし、自分のことをともだちと思ってくれる人だっているのです。

 

それぞれの「ハリ」を抱える展開の人たち。それは自分の悩みであると同時に、自分を自分らしく支えてくれる「誇り」でもあるのです。理解されにくいから理解されたいけど、そんなに簡単に理解されたくもない、なんて、とっても複雑な思いを抱える展開の気持ちを、この「ハリ」が象徴しているように思います。

 

真の意味を理解するのは少し難しい<孤独>や<存在>、<迷い>や<自分自身>なんて言葉たちも、どうぶつたちに交じって登場します。どうぶつたちも、それぞれ悩みがありそうで、周りにいてもおかしくないのが笑えます。

 

あらゆる妄想好きな展開さん、自分の繊細さや小難しさを自覚している展開さんに、この本をお勧めします!展開さん以外のすべての悩める優しい人たちにも、ぜひ読んでいただきたい作品です(気になる方は画像をクリック)。

 

そして最後に出てきたどうぶつは、夫が私の「動きや習性と似ている!」とからかって、私のあだ名にされているまさにそのどうぶつなのでした(笑)。

 

明日もまっすぐ届け!